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ひとり法人の算定基礎届の書き方|役員1名の記入例と提出方法

本記事は日本年金機構の公表情報(執筆時点・2026年8月)を調査してまとめたものです。運営者個人の体験談ではありません。制度・様式は年度ごとに変わるため、実際の提出時は必ず日本年金機構と管轄の年金事務所の最新情報を確認してください。

算定基礎届は、毎年7月1日から7月10日までの間に年金事務所へ提出する届出で、4月・5月・6月に支払った報酬をもとに、その年の9月から翌年8月までの標準報酬月額(社会保険料の計算のもとになる区分)を決め直すためのものです。役員1名のひとり法人でも提出対象になります。

大手の解説記事の多くは、従業員が複数いてパート・アルバイト・中途入社が混在する人事担当者向けに書かれています。ただ、実際に「自分で書けるだろうか」と検索している人の多くは、役員1名・毎月定額の役員報酬という、記入欄がほとんど埋まらないシンプルなケースです。この記事では、そのケースを軸に、どの欄に何を書くのかを設例つきで整理します。

標準報酬月額そのものの仕組みはマイクロ法人の社会保険料の仕組みで、7月にまとまって発生する他の手続きはひとり法人の年間手続きカレンダーで解説しています。

算定基礎届とは何か(定時決定の仕組み)

4〜6月の報酬で、9月からの保険料が決まる

健康保険・厚生年金保険の保険料は、毎月の報酬額そのものではなく、報酬を一定の幅で区切った「標準報酬月額」に料率を掛けて計算されます。この標準報酬月額を年に1回まとめて見直す仕組みが定時決定で、そのために提出する届出が健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届(略して算定基礎届)です。

日本年金機構の案内では、7月1日現在の被保険者について、同日前の3か月間(4月・5月・6月)に受けた報酬の総額をその期間の総月数で割った額を報酬月額とし、そこから標準報酬月額を決定するとされています。決まった標準報酬月額はその年の9月から翌年8月までの各月に適用されます。

ここで注意したいのが「4月・5月・6月に支払った報酬」という点です。給与計算の対象期間ではなく、実際に支払いを行った月で判断します。月末締め翌月払いの会社であれば、4月に支払った3月分の報酬が「4月」の欄に入ります。

提出期間と提出先

提出期間は毎年7月1日から7月10日までです。提出先は事業所の所在地を管轄する年金事務所(事務センター)になります。

直近の令和8年度(2026年提出分)は、日本年金機構の特設ページで「令和8年7月1日(水曜)から令和8年7月10日(金曜)まで」と案内され、様式等は6月中旬から順次送付されるとされていました。用紙は、すでに登録されている被保険者の氏名・生年月日・従前の標準報酬月額などがあらかじめ印字された「ターンアラウンド届出用紙」の形で事業所宛てに郵送されます。

この用紙は登記した本店所在地宛てに届きます。バーチャルオフィスを登記住所にしている場合は転送日数が加わるため、提出期間が10日間しかないことを踏まえると、6月中の到着を前提に予定を組んでおくと余裕が生まれます。

提出しなくてよい人

日本年金機構は、次に該当する人については算定基礎届の提出が不要としています。

ひとり法人で関係してくるのは、主に3番目・4番目です。設立が6月以降で、6月中に社会保険の資格を取得したばかりという場合は、その年の算定基礎届は不要になります。

役員1名・毎月定額の記入例

ここからは架空の設例で、どの欄に何を書くのかを追います。以下の数字はすべて説明のための仮の設例であり、実在の法人のものではありません。

設例の前提

例: 役員報酬が月25万円の合同会社(役員1名)の場合

  • 代表社員1名のみ、従業員なし
  • 役員報酬は毎月25万円(定額)、当月1日〜末日を計算期間として当月25日に支払い
  • 通勤手当・社宅・食事などの現物支給はなし
  • 4月〜6月に報酬の変更なし、遡及して支払った差額もなし
  • 従前の標準報酬月額は26万円

ステップ1: 印字済みの内容を確認する

ターンアラウンド用紙には、事業所整理記号・事業所番号・被保険者整理番号・氏名・生年月日・従前の標準報酬月額・従前改定月などがあらかじめ印字されています。まずここが実態と合っているかを確認します。日本年金機構は、印字内容と自社の記録に食い違いがある場合は管轄の年金事務所に確認するよう案内しています。

用紙が見当たらない場合は、日本年金機構のサイトから様式(PDF・Excel)と記入例をダウンロードできます。その場合、事業所整理記号と事業所番号は毎月届く納入告知書で確認できます。

ステップ2: 適用年月を書く

④の適用年月欄に、新しい標準報酬月額が適用される年月(その年の9月)を記入します。日本年金機構は、この適用年月の記入漏れを「届出不備や誤りの多い事例」の筆頭に挙げています。印字されていないことがあるため、確認したい欄です。

ステップ3: 支払基礎日数を書く

⑨の支給月には4月・5月・6月を、⑩の給与計算の基礎日数にはそれぞれの月の日数を記入します。日本年金機構は、月給制・週給制の場合の支払基礎日数は暦日数、日給・時給の場合は出勤日数など報酬支払いの基礎となった日数と案内しています。役員報酬は通常が月額固定なので、出勤日数ではなく暦日数を書くことになります。

設例(当月1日〜末日を計算期間とする当月払い)なら、次のようになります。

支給月給与計算の対象期間支払基礎日数
4月4月1日〜4月30日30日
5月5月1日〜5月31日31日
6月6月1日〜6月30日30日

月末締め翌月払いの場合は、対象期間が1か月ずれるため、4月支給分は3月分(31日)、5月支給分は4月分(30日)、6月支給分は5月分(31日)になります。締め日と支払日の関係で日数が変わる点は、記入前に自社の給与規程を確認しておきたいところです。

ステップ4: 報酬額を書く

⑪の「通貨によるものの額」に、その月に支払った報酬を記入します。社会保険料や源泉所得税を差し引くの総支給額です。⑫の「現物によるものの額」には、社宅・食事・通勤定期券の現物支給など、金銭以外で支払った報酬を金銭に換算した額を記入します。設例では現物支給がないため0円です。⑬の合計欄は⑪+⑫です。

4月5月6月
⑪ 通貨によるものの額250,000円250,000円250,000円
⑫ 現物によるものの額0円0円0円
⑬ 合計(⑪+⑫)250,000円250,000円250,000円

ステップ5: 総計・平均額を出す

⑭の総計には、支払基礎日数が17日以上の月の⑬を合計した額を記入します。設例では3か月とも17日以上なので、250,000 × 3 = 750,000円です。

⑮の平均額には、⑭を「支払基礎日数が17日以上の月数」で割った額を記入します。設例では 750,000 ÷ 3 = 250,000円です。

⑯の修正平均額は、遡って支払った差額がある場合や、途中入社で日割り計算になった月を除いて計算し直す場合に使う欄です。設例では該当しないため空欄になります。

ステップ6: 標準報酬月額に当てはめる

平均額(報酬月額)が出たら、標準報酬月額の等級表に当てはめます。等級表は協会けんぽ・健康保険組合が公表しているもので、報酬月額が25万円以上27万円未満の区分に該当する場合、標準報酬月額は26万円(健康保険第20等級・厚生年金保険第17等級)となります。

設例では従前の標準報酬月額が26万円なので、9月以降も等級は変わりません。標準報酬月額26万円で、執筆時点の東京都・協会けんぽ・40歳未満の料率(健康保険9.85%、厚生年金18.3%)を当てはめると、計算上は健康保険料が月25,610円、厚生年金保険料が月47,580円(いずれも労使合計・子ども子育て支援金を除く)となり、その半分が本人負担分になります。料率は都道府県・年度・年齢で変わるため、実際の金額は協会けんぽの保険料額表で確認してください。等級表と料率の考え方は社会保険料の仕組みで詳しく整理しています。

なお、標準報酬月額を書く欄は事業主が記入するものではなく、届出をもとに年金事務所側が決定します。事業主が書くのは、あくまで「4〜6月にいくら支払ったか」までです。

記入欄の一覧(役員1名の場合に何を書くか)

内容役員1名・定額報酬の場合
①被保険者整理番号印字済み確認のみ
②被保険者氏名印字済み確認のみ
③生年月日印字済み確認のみ
④適用年月新しい等級の適用月その年の9月
⑤従前の標準報酬月額健康保険・厚生年金印字を確認
⑥従前改定月前回改定した年月印字を確認
⑦昇(降)給昇給・降給の月と区分4〜6月に改定がなければ空欄
⑧遡及支払額遡って支払った差額通常は空欄
⑨支給月実際に支払った月4月・5月・6月
⑩給与計算の基礎日数月給制は暦日数30日・31日など
⑪通貨によるものの額総支給額25万円ずつ
⑫現物によるものの額現物支給の換算額0円
⑬合計⑪+⑫25万円ずつ
⑭総計対象月の⑬の合計75万円
⑮平均額⑭÷対象月数25万円
⑯修正平均額補正が必要な場合のみ空欄
⑰個人番号(基礎年金番号)70歳以上被用者のみ記入通常は空欄
⑱備考該当項目に丸該当なしなら空欄

用紙の上部には、事業所整理記号・事業所番号・事業所所在地・事業所名称・事業主氏名・電話番号・提出年月日を記入します。役員1名の法人であれば、被保険者の行は1行で終わります。

よくある特殊ケース

非常勤役員の場合

そもそも社会保険の被保険者でなければ、算定基礎届の対象にもなりません。法人の代表者・業務執行社員は原則として被保険者になりますが、それ以外の非常勤役員については、勤務実態・報酬額・他社での勤務状況などから被保険者に該当するかどうかが個別に判断される取り扱いです。配偶者を非常勤役員にしているケースなどは、加入の要否そのものが論点になるため、管轄の年金事務所への確認が確実です。

役員報酬がゼロ、または4〜6月に報酬がない場合

役員報酬をまったく支払っていない場合、報酬から保険料を計算できないため、そもそも被保険者資格が認められない扱いになるのが一般的です。この点は個別判断になるため、年金事務所に確認する領域です。

一方、すでに被保険者になっている人が、病気欠勤などで4月・5月・6月にまったく報酬を受けなかった場合について、日本年金機構は従前の標準報酬月額のまま決定すると案内しています。同様に、4月・5月・6月の3か月とも支払基礎日数が17日未満だった場合も従前の標準報酬月額で決定されます。これらは「保険者決定」と呼ばれる取り扱いです。

期中に役員報酬を変えた場合(月額変更届との関係)

役員報酬を改定し、固定的賃金の変動後3か月間の平均から算出した標準報酬月額が従前と2等級以上変わった場合などは、年1回の定時決定とは別に「月額変更届」による随時改定の対象になります。この2つの関係を整理すると次のとおりです。

状況算定基礎届の扱い
7月改定の月額変更届を出す算定基礎届は不要
8月または9月に随時改定が予定されている事業主の申し出により省略可能
10月以降に改定予定算定基礎届は通常どおり提出

8月・9月の随時改定予定者について省略を申し出る場合、紙の届出では報酬月額欄を記入せず空欄とし、備考欄の「3.月額変更予定」に丸を付けるとされています。電子申請・電子媒体では、その人を除いて算定基礎届を作成・提出することが申し出とみなされます。ただし、その後に随時改定の要件に該当しないことが判明したときは、速やかに算定基礎届を提出する必要があります。

なお、役員報酬は法人税法上の定期同額給与の制約があり、事業年度の途中で自由に増減できるものではありません。改定のタイミングは社会保険と税務の両面が絡むため、判断に迷う場合は税理士・社会保険労務士に相談してください。

昇給・降給があった場合

4月・5月・6月に昇給や降給があった場合は、⑦の昇(降)給欄にその月と区分を記入します。さらに、昇給の差額を遡って支払った場合は⑧の遡及支払額に記入し、⑯の修正平均額で「本来支払われるべきだった月額」に補正した数字を出す扱いになります。ひとり法人でも、決算後に役員報酬を改定して差額を遡及支給した年は該当し得ます。

提出方法は3種類

日本年金機構は、算定基礎届の提出方法として電子申請・電子媒体(CD/DVD)・郵送・窓口持参を挙げており、令和8年度の案内では「手続きの簡素化および迅速化が見込める電子申請」の利用を呼びかけています。

方法概要準備するもの
郵送送られてきたターンアラウンド用紙に記入し、同封の返信用封筒で事務センターへ送付用紙のみ
窓口持参管轄の年金事務所へ持ち込む用紙のみ
電子申請e-Gov、届書作成プログラム、市販の労務ソフトのいずれかから送信GビズIDプライムまたは電子証明書

役員1名で記入欄が1行しかないなら、郵送でも作業量は多くありません。一方、電子申請にすると、決定通知書を電子データで受け取れる、控えが手元にデータで残る、といった運用面の違いが出ます。

電子申請の入口はGビズID

日本年金機構の電子申請は、e-Gov経由で申請する方法、無料の「届書作成プログラム」を使う方法、市販の労務管理ソフトを使う方法に分かれます。いずれも認証が必要で、日本年金機構は社会保険手続きにはGビズIDプライムが必要と案内しています(電子証明書を使う方法もあります)。

GビズIDは複数の行政サービスを1つのアカウントで利用できる認証システムで、アカウントの利用自体は無料です。GビズIDプライムの取得には、マイナンバーカードを使ったオンライン申請と、印鑑証明書を添付する書類申請の2通りがあり、GビズID側の案内では、オンライン申請の審査は24時間365日速やかに行われる一方、書類申請は最大1か月かかる場合があるとされています。7月の提出期間に間に合わせるつもりなら、逆算して準備する必要がある部分です。

届書作成プログラムは無料でダウンロードでき、資格取得届・資格喪失届・算定基礎届・月額変更届・賞与支払届・被扶養者(異動)届・国民年金第3号被保険者関係届に対応しています。

社会保険料は、法人負担分(法定福利費)と本人負担分(役員報酬から控除した預り金)に分けて記帳することになり、9月分以降は新しい標準報酬月額で金額が変わります。給与計算と社会保険料の記帳をどこまでソフト側で処理できるかは製品によって差があるため、機能差は会計ソフト比較で整理しています。

出し忘れた、間違えた場合

提出しなかった場合

算定基礎届は法令にもとづく事業主の届出義務です。厚生年金保険法第102条では、事業主が正当な理由なく同法第27条の届出をしなかった場合や虚偽の届出をした場合の罰則が定められています。実務上いきなり罰則が適用されるわけではなく、まずは年金事務所から提出を促す連絡や照会が入るのが通常の流れですが、放置すれば調査の対象になり得ます。

提出がないままだと、9月以降も従前の標準報酬月額で保険料が計算され続けることになります。後から実際の報酬額との差が判明した場合、遡って標準報酬月額が訂正され、保険料の差額を精算することになります。期限を過ぎたことに気づいた時点で、管轄の年金事務所に連絡して提出方法を確認するのが現実的な対応です。

記入を間違えた場合

日本年金機構は、記入漏れや誤りがある届書は返戻(返却)される場合があると案内しています。返戻された場合は、訂正して再提出することになります。提出後に誤りに気づいた場合の訂正方法は状況によって異なるため、管轄の年金事務所に連絡して指示を仰ぐことになります。

日本年金機構が挙げている「誤りの多い事例」のうち、ひとり法人でも起こり得るのは次の2つです。

残りの事例(短時間労働者の支払基礎日数、70歳以上被用者の個人番号、再雇用時の整理番号)は、従業員を雇っていない法人では通常は関係しません。

提出後の流れ

提出後、決定された標準報酬月額は「標準報酬決定通知書」で事業所に通知されます。電子申請を利用している場合は、通知書を電子データで受け取ることもできます。

新しい標準報酬月額は9月分の保険料から適用されます。保険料の納付期限は翌月末日なので、実際に金額が変わるのは10月末納付分からです。役員報酬から保険料を翌月控除している場合は、10月に支払う役員報酬の控除額から変わることになります。等級が変わった年は、給与計算の設定を更新し忘れると源泉徴収額や預り金の残高がずれるため、通知書が届いたタイミングで反映するのが自然です。

まとめ

制度情報は執筆時点(2026年8月)のものです。様式・提出期限・料率は年度ごとに改定されるため、実際の提出時は日本年金機構: 定時決定(算定基礎届)と管轄の年金事務所の案内で確認してください。個別の判断が必要な場面では、社会保険労務士・税理士等の専門家に相談してください。